《1》はじまり

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《1》はじまり

もう嫌だ。何もかも。そもそも私に向いてなかったんだ。あの仕事も、あの男も。 「ねぇ、見て。あの人」 「あんまりジロジロ見るなって」 「うわ、みっともない」 クスクスと聞こえる笑い声と冷たい視線は私に向けられている。わかってる。わかってるから、もう放っておいてよ。 平日の夕方。ちょうどサラリーマンやOLが帰宅する時刻。そんな時間帯に泥だらけのスーツを着て、折れたヒールを片手に持って、裸足でベンチに座り込んで、目に涙をためている女がいたら、私だって好奇な目で見る。 人間なんて、そういうものなんだ。特に日本人はやたらと高見の見物をしたがる。少しでも何か他人と違えば批判して、何かあれば野次馬が湧く。  
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