無塵島殺人事件File1

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哲也、華夜ペア。 二人でテントに入った物の、哲也は口を開かずただ上を見詰めている。 今頃竜之介は由奈と二人きり。 ちょっと複雑な気分だがくじで決まった事だし由奈なら大丈夫だと自分に言い聞かせる。 言い聞かせてもとりあえずこの状況に慣れなければ。 そう思い何か話しかけようと言葉を探す。 が、咄嗟に思い浮かぶ言葉も無く沈黙が流れる。 「如月さん。」 「はっ…はひっ!」 いきなり話しかけられ、口ごもる。 「脅かすつもりは無かったんだが…ごめん。」 「いっ…いや。 私こそ。」 「君が彼と知り合ったのは随分昔だそうだね。」 「えっ…あっ…はい。 幼稚園の頃からですし…。」 「どうしたんだい? 同い年なんだ。 敬語は要らないよ。」 普段のクールな顔付きとはまた違う笑顔を見て、思わずドキリとする。 「あっ…うん…そっ…そうだよね。」 落ち着かない自分を何とか抑え、言葉を返す。 「まぁ…良いさ。 二人はそんなに長いんだね。 僕が彼と知り合ったのは空手道場だから…小学の時になるか。」 「竜之介、わざと負けたんだよね?」 「あぁ。 あの時の前夜に限ってアイツはわざと徹夜したらしい。 それでも決勝に上ったんだから…アイツの実力は本物だよ。」 「小城君は…その後どうしたの?」 「父さんも実の息子が大会で優勝ってだけで満足してたらしい。 何より父さんは俺に後を継がせたいんだ。 それ以上の名誉なんて、望んじゃいなかった。」 「なら何で空手を…?」 「医者と言う職業は、意図せずとも人から恨みを買う商売だとは父さんから耳にタコが出来る程聞かされて来た。 だからそう言った輩に立ち向かう為に護身術ぐらいは身につけておけと言った。」 「小城君は病院を継ぐつもりは無いんだよね…?」 「僕は見てきた。 どれだけ医学が発達した現代でも救えない命は数え切れない。 僕が医者になれば、その罪の十字架をいつか背負わ無ければならない時が来るんだ。 あの時の父さんの様に。」 「……。」
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