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船内にて。
「あの島の所有者の藤堂はね、元は悪名高い資産家だったの。」
「資産家?」
「それがこの無塵島に眠る鉱石を総なめにするために島ごと買い取って別荘まで作ったそうよ。」
「へぇー…。」
「そんな人には見えなかったですよ。
ねぇ、竜之介。」
「どうだろうな。」
「人は見かけによらないよ。
建前だけでは分からない。」
「へぇ。
哲也、なんか教訓みたいな事言うじゃん。」
「…別に。」
「あっ、あれがそうじゃない?」
絵里が指差すと、視線はその指の先に集まる。
「あれが…無塵島。」
「木が…全く無い…。」
「全て…焼けてしてしまいました。」
「あっ…藤堂さん。」
「今は外から持ち込んだ種や肥料で小さな花を植えて、島の緑を取り戻す事に務めております。」
「藤堂さんはこの島の昔の姿を知ってるんですか?」
「…。
いえ…。
ですが分かりますよ。
ここに集落があった頃にはもっと自然に満ち溢れていたと。」
「…。」
「先程彼女がおっしゃっていた通り。
私は昔は悪名高い資産家でした。」
「あっ…。」
「それ故に命を狙われる事も多々ありました。
この島に来たのはそんな場所からある日逃げたくなったからなんです。」
「…。」
「逃げてみて分かりました。
私には信用出来る味方などもう居無くなってしまった。
自分がして来た事の罪深さに…その時になってようやく気付かされたのです。」
「そうだったんですか…。」
「でもならなんでわざわざこんな人を集めるような真似を?」
「この島に眠る鉱石を見つけ、そのお金をこの島の復興作業に当てる。
そうする事はこの島で命を落とした人間達の弔いになる。
罪深き私の出来る罪滅ぼしだと思うのです。」
「へぇ…。」
「さて…島が見えて参りました。
降りる準備をしてください。」
「あぁ。」
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