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「はァ?地獄ぅ?
お前あんな所行ってどうするつもり?
蜘蛛の糸ならぬ咲片の髪の毛でも垂らす気かよ?」
お前垂らす余裕なんてあるのかよと黒い髪をゆらし、息も絶え絶えに笑う片倉は昔からの付き合い……いわば相棒。
そしてここは片倉の仕事場だ。
片倉専門店
ここの看板にはそう書かれている。
何の専門店か?
何ということはない、ただの何でも屋だ。
少々高額だが、依頼をきっちりとこなす片倉の店の客足が途絶えることはない。
――絶対一ヶ月で潰れるぞ
そう片倉に忠告してみせたあの日から4年、残念ながらいっこうに看板がおろされる気配はない。
俺は今、足を組んで俺を笑う片倉専門店の主人に頼み事をしにきたのだ。
しかし、片倉の言う事は本当に面白くない。
こいつはギャグのつもりなのか?
本気で俺の頭を心配しているようには到底思えない。
「つぅか咲片は地獄克服したわけ?
いつかみたいに地獄でいきなり暴れだしたりしねぇだろうなァ?」
片倉が俺を見上げて鼻で笑う。
……そうだ、俺は地獄に行くのが怖い。
俺はあそこに行くと俺じゃなくなる。
どうしたわけか、死後の人間を痛め付ける鬼を見ると俺も鬼のようになってしまう。
どうも俺は周りに感化されやすいらしい。
以前観光に行ったときは本当にひどかった。
鬼達の先頭をきって過剰にかつての人間を痛め付けたために、罰金をとられた。
「だからお前を誘いにきたんだ。
俺のストッパーになってくれ」
こいつは冷静で頭がきれる、腕力もある。
ストッパーにはうってつけだ。
頼りになる、いわゆる出来る奴だ。
…まぁ扱いにくい奴でもあるのだが。
気付いたらこいつの手の平で躍らされている節もある。
毎回ちょっとした頼みのはずが、気づくととんでもなく高額な報酬をとられていたりもする。
一日分の飯代を借りて返すだけのはずが、気づくと俺の初任給を叩いて買った高級懐中時計まで利息としてとられていたこともあった。
気付いた時に返せと言っても、もう質に入れたという。
こいつは初任給でしてしまった衝動買いの為に、一月生き延びるのに俺がどれ程苦しい思いをしたのか知らなかったのか。
有り得ないような話だが片倉の口車の回り方はかなりの高速回転。
気付いたときには降りれない。
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