109人が本棚に入れています
本棚に追加
「それにしてもお前、何でついてきたんだ」
列車の中、みかんを剥く片倉に聞く。
器用にするするとみかんを剥くこいつは、全く顔を上げようとしない。
「あァ?
……お前に頼まれたからだよ」
「俺の頼みを聞く奴だったか?」
「あァ?
……お前、今回で退職だろ」
「あぁなんだ、そんな人情がお前にあったのか」
「まァな。
人間になる奴には退職祝いをやらないかんだろうが。
無駄金払うくらいなら働くさ。
つまりこれが退職祝いの代わりってわけだ」
そういえばこいつは昔から金にうるさい奴だったな。
無駄金払うくらいなら働く。
こいつらしいといえばこいつらしい。
ふふっと笑いがこぼれると、片倉が居心地悪そうに身をよじった。
外を眺めると、ちらほらと鬼が見えるようになった。
地獄は近いな。
そう思うと同時に、向こうの方に赤と黒のねりまじったような大きなものが見えた。
地獄の関門が見えてきた。
最初のコメントを投稿しよう!