地獄への道

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「それにしてもお前、何でついてきたんだ」 列車の中、みかんを剥く片倉に聞く。 器用にするするとみかんを剥くこいつは、全く顔を上げようとしない。 「あァ? ……お前に頼まれたからだよ」 「俺の頼みを聞く奴だったか?」 「あァ? ……お前、今回で退職だろ」 「あぁなんだ、そんな人情がお前にあったのか」 「まァな。 人間になる奴には退職祝いをやらないかんだろうが。 無駄金払うくらいなら働くさ。 つまりこれが退職祝いの代わりってわけだ」 そういえばこいつは昔から金にうるさい奴だったな。 無駄金払うくらいなら働く。 こいつらしいといえばこいつらしい。 ふふっと笑いがこぼれると、片倉が居心地悪そうに身をよじった。 外を眺めると、ちらほらと鬼が見えるようになった。 地獄は近いな。 そう思うと同時に、向こうの方に赤と黒のねりまじったような大きなものが見えた。 地獄の関門が見えてきた。
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