プロローグ

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 非常勤とはいえ来る日時は、月曜日から土曜日の夕方六時から十時。  いつもリビングでだらだらテレビを見ている真央に対して「ゴールデンタイムはアニメが熱いんですよ」と蒸気が出そうなほどに顔を赤く染めて主張する。  どうやら、三宮は世間体でいうアニオタらしい。  いまいち意味がわからないのだが、ひとつの事柄に没頭する人種をオタクというらしく、アニメーション番組を執拗に閲覧しようとする人種をアニメーションに関するオタク……というようだ。  それを真央に語ったところ「そんなの常識だよ」と悪戯な微笑みをお見舞いされた。  可愛さのあまり不覚にも言葉を失ってしまった俺は自分自身を情けなく思う。  そういえば、真央のやつは六時から八時まではNHKかローカル番組を見ていたのだが、非常勤メイドのおかげでアニメしか鑑賞できず少しイライラしていた。  ところが、浮浪者体質の生徒会長にはその場の環境に適応するという驚異の才能があり、五日が過ぎた時にはすでに映像化された漫画に心を奪われるほどのレベルにまで到達するという快挙を成し遂げる。    会長と書記が童心に帰って映像を食い入るように眺める姿は微笑ましい。  だが、俺は真央と二人きりになる時間が欲しいので、呑気に笑ってられないのが現実だ。  何気なく日々を過ごしていると男というものは女の友情に干渉できない生物というのを痛感する。  話題と会話の盛り上がり方が独特で手を出せないのだ。  よって、俺は三宮の帰宅時間が訪れるまで指をくわえて待つことを強いられる。
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