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「死のうとしているっていうの、半分は冗談だ。今日は色んな所を下見しようと思ってね」
「……言いたいことは山ほどあるけど……下見?」
「下見は下見だよ。ほら、自殺するためのスポットを発見しちゃおうかな、なんてね」
彼は薄笑いを浮かべながら淡々とそんなことを言う。
どうやら、死ぬための行動というところは本当だったようだ。
同様と焦燥を禁じえない僕は、僕にとって一番興味がある質問をしてしまう。
「何故なんだい? ……何故、死のうと思ったんだい? 辛いことでもあったのかい?」
ほんの一瞬、自分と彼とを重ねて最後の言葉を付け加えてしまった。辛いことがあるのは、僕のことだ。彼は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに顔を綻ばせ、幾らか興奮した様子で答える。
「何故? 何故かって? 僕が死ぬ理由なんて簡単なものだよ。これも何かの縁だ、教えてあげよう。僕が死ぬのはね、死んだことがないからさ!」
「……は?」
僕は思わず素っ頓狂な、けれど怒気を含んだ声をあげてしまっていた。
この男は一体何を言っているんだ? それはつまり、死んだことがないから死んでみよう、なんていう下らない理由で死のうとしているっていうのか? 好奇心、それだけで。
そうか、この男は――。
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