第一章 別れ

9/19
前へ
/397ページ
次へ
イズミはイギリス時代、本物の魔女の占い師に会った事がある。 その人は裏の老婦人の友人だった。 何故魔女かというと、裏の老婦人は魔女で、その友人だから魔女に違いないと思っただけだ。 魔女は自ら魔女とは言わない。 つまり老婦人が魔女だという事も、イズミが勝手に信じているだけで、特に確証はない。 占い師の名前は、“マダム・タラッサ”。 タラッサとは、古代ギリシャ語で海の意味だ。 とても恰幅のいい婦人だった。 彼女は紫と金色の絹のドレスを着ていた。 頭から光沢のあるチュール(六角形の網目模様の布)のベールを被っていた。 マダム・タラッサには伝統を感じさせる風格と迫力があった。 日本人がいくら真似をしても、あの味はなかなか出せないだろう。 だから目の前にいる占い師は、コスプレの偽物にしか見えない。 取りあえず、こんな寒空の下で露店を出す根性だけは認めてやろう。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

91人が本棚に入れています
本棚に追加