反逆の秋稔

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今、和馬がどんな顔をしているのか分からない。 きっと、笑っているだろう。 なのに。 「…………」 秋稔は喉を鳴らし、息を硬直させる。 変なものを見ているような、信じられないという雰囲気に包まれる。 「和馬! 怪我は平気なの!?」 「ん……んー、だいじょーぶ」 心配で声を張り上げる七海だったが、和馬は首に手を当てるだけで振り返ろうとしない。 「和馬……?」 「七海、相原と環さんのことお願いね」 「え、でも……」 「いいからいいから」 首に当てた手を離し、その手をひらひらと振る。 「先行ってて。俺、この人に用があるから」 振り返らない。 「かず――」 「ごめん、あっち行って」 「…………」 「ごめんね」 その一言に七海は眉を下げ、唇を噛みしめた。 何故、振り返らないのか。 “七海”にだけはその理由が分かっていた。 七海は身を翻して、環の手を取り、戸惑う秋稔の背中を押した。 「相原! 行くわよ!」 「ちょ、ちょっと待てって! 楠木を置いていく気か!?」 「いいから! ほら走って!」 七海の勢いに押され、秋稔は戸惑いながらも麻酔銃を回収し、やむを得ず走り出す。
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