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天音は目を見開く。
消えた。
その手に掴んでいたはずの小刀が消えた。
否、消えてはいない。目の前にある。
「こんなものを振り回したら危ないですよ」
突き付けたはずの小刀の刃先は、天音の喉元寸前のところで止まっていた。
「――――ッ」
背筋に戦慄が走る。
視認することも、認識することも出来なかった。
小刀を奪われ、奪われた小刀で突き付けられたことを。
「あ……ぁ……」
「時ノ宮家の母たるもの、この程度の不意討ちではやられたりはしませんよ」
小刀を天音の喉元に突き付けたまま微笑む千鶴に、天音は恐怖から微動だに出来ず硬直する。
「何の騒ぎですかな?」
低く響いた男の声。
良吉達は声の方向に視線を移すと、門の前に着物姿の大男が立っていた。
「あ……っ」
良吉と風香は目を見開く。
ずっと。
ずっと会いたかった人物が瞳に映る。
「弥彦兄ぃッ!」
西園寺家の長男――西園寺 弥彦がそこにいた。
「良吉殿、風香殿。何故このようなところに……?」
驚いた様子で弥彦は問うが、良吉と風香は聞く耳持たず一目散に弥彦に駆け寄る。
そして、弥彦の右腕を良吉が、左腕を風香が掴んで必死に彼を引っ張ろうとする。
「弥彦兄ぃのアホ! なんで戻ってこんさね!」
体格差から弥彦を引っ張っても、身体が少し傾ぐだけで動かすことはできない。
それでも良吉と風香は弥彦を連れて帰ろうと無我夢中で彼の腕を引いた。
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