1828人が本棚に入れています
本棚に追加
「裏社会の人間はなぁ、テメェらみてぇな表の世界でのうのうと生きてる人間が嫌いなんだよ」
「そん、なこと……ないさね」
「あ?」
苦しみに呻く最中、良吉は真っ直ぐと刺青の男を睨み返す。
「弥彦兄ぃは……いつ、もオレ達の味方、だったさ」
いつだって弥彦は西園寺家の味方だった。
「オレ達、大人が……大嫌いさね。でも、弥彦兄ぃに出会って変わったんさ……っ」
かつて大人を信用することが出来なかった良吉と風香が心を開けたのは、彼の存在があったから。
変に気を遣ったり、遠慮したり、避けたり、同情するわけでもなく、弥彦は二人を本当の家族のように接してくれた。
「だから……!」
過ごした日々が、思い出が、時間が、偽りだったとは言わせない。
「お前らと……弥彦兄ぃを、一緒にすんなさ!」
「このクソガキ!」
刺青の男は良吉の襟首を掴んだまま、空いた右腕を振り上げる。
強く握られた拳を振り下ろそうとした時、甲高いブレーキ音が響き渡る。
刺青の男は視線を良吉から音の方向と移すと、少し離れたところに見覚えのない真っ赤なベンツが一台停車していた。
何故か助手席のドアが開いたまま。
「ん?」
一瞬風が通り抜けたのか、髪が揺れ――……
「ぎぃ、ぁぁあああああっ!」
突如、刺青の男が悲鳴を上げる。
同時に良吉は刺青の男の手から解放され、地面へと崩れ落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!