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「な、なにさね?」
良吉は喉を押さえて咳き込み、突然のことに目を白黒とさせる。
ふと、見上げると、
「あ……」
そこには見覚えのある女性の後ろ姿が。
「子供に暴力は感心しませんよ」
刺青の男の腕を掴み、女性は言った。
一見ただ刺青の男の腕を掴んでいるだけのように見えるが、男は苦しみに悶えていた。
「なんで……」
良吉は困惑した表情で彼女――
「なんで、千鶴さんが……」
――時ノ宮 千鶴を見つめる。
「こんばんは」
時ノ宮家の母こと千鶴は振り返って綺麗な笑みを浮かべる。
「こ、こんばんは……」
「ぎっ、が、あだだだだだだ!」
必死に千鶴の手を振り解こうするが、まるで石像に縫い付けられたかのようにびくともしない。
「良吉君、怪我はない?」
「う、うん……」
「ぐっ、が、あだだっ、だ!」
「でも良吉君も風香ちゃんもダメよ。こんな遠くに二人だけで来たら」
「あ、うん……」
「テメェ! 離しやが……あががががががっ!」
なんだこの状況は。
良吉は茫然としていると、スキンヘッドの男が形相とした顔で乱入者の千鶴に近づく。
「チッ、このアマ! ざけやがって!」
千鶴の肩に触れようとした直後、
「ぐぼはっ!?」
「がっ!?」
スキンヘッドの男が吹っ飛び、刺青の男に激突し、そのまま仲良く地面に転がる。
否、正しくは蹴っ飛ばされた。
千鶴にではなく“奇妙”な男によって。
「女性に暴力は感心しませんわよってか、ヒャハハハハ!」
赤。赤い。
後ろで結んだ赤い髪。
赤いピアス。
赤いコート。
赤いズボン。
頬には描かれた赤いライン。
赤い男――時ノ宮 朔磨が良吉の目の前に現れた。
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