罪深き男の仁義(後編)

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二十四秒後。 「…………」 良吉、絶句。 強面の男達が揃いも揃って地面に倒れ込んでいる光景を見て、良吉は絶句する。 「おいおーい、母上。全員殺しちまったのかよ?」 「もう、そんなわけないでしょ。関節をちょっと、ね」 千鶴は手についたほこりを軽く払いながら、笑顔でそう言った。 本当に一瞬の出来事。 屈強な男達が千鶴に襲い掛かるたびに、一人、また一人と地面にひれ伏し、気付いた時には全てが終わっていた。 「やれやれ、外が騒がしいと思ったら酷い有り様だねぇ」 静まり返った空間に突如響いた女性の声。 開いたままの門を通り抜け、屋敷から現れたのは甚平を着た女性――天音だった。 無様に転がる組員達を見回した後、千鶴に視線を向ける。 「あら、こんばんは」 「ああ、どうもこんばんは。こりゃあアンタの仕業かい?」 「正当防衛ですよ」 「ハハ、参ったね。うちの連中も腕っぷしは良い方なんだけどねぇ」 やれやれと天音は頬を掻きながら嘆息する。 「アンタ、軍の人間かい?」 「いいえ、ただの主婦です」 「ハッ、そんな主婦さんがここになんの用だい?」 「フフ、私は特に用はありませんよ。用があるのはあの子達ですから」 千鶴が後ろを振り返ると、天音はその視線の先を追う。 視線の先には良吉と風香がいた。 「ああ……そういうことかい」 言わずとも、彼らがここへ来た理由が分かる。 弥彦に会いに来たのだと。  
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