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「天音のねーちゃん!」
切羽詰まった表情で良吉は叫ぶが、天音は何も応えない。
「お願いさね、弥彦兄ぃに会わせちょくれ!」
「…………」
何も、答えない。
「天音のねーちゃんッ!」
良吉の懇願するような眼差しを、天音は威圧的な眼差しで切り返す。
「無理だと言ったら?」
低く押し殺した声音に、良吉は肩を震わす。
良吉が言葉に詰まっていると、千鶴が一歩前に出る。
「無理だと言ったら、通していただくだけですよ」
「……そうかい」
千鶴とは初対面の天音だが、長年の勘で分かる。
迂闊な行動をすれば、地面に転がっている組員達と同じようになることを。
「ああ、そうかいそうかい」
天音は深々とため息をつき、両手を上げて降参のポーズをとる。
「アタシはこう見えても暴力は好まないタチでね。無駄に争うつもりはないよ」
本当に困ったもんだ、と天音は呟きながら一歩足を進めて千鶴に近づく。
「まったく、とんだお客さ――」
瞬間、天音は意図的に言葉を切り、懐から小刀を取り出した。
大きく踏み込むと同時に刃先を千鶴の喉元目掛けて突き出す。
一瞬の隙をついた天音の不意討ち。
強者に対しての最も有効な手段。
小刀は千鶴の喉元を貫く――
「え……?」
――はずだった。
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