罪深き男の仁義(後編)

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「天音のねーちゃん!」 切羽詰まった表情で良吉は叫ぶが、天音は何も応えない。 「お願いさね、弥彦兄ぃに会わせちょくれ!」 「…………」 何も、答えない。 「天音のねーちゃんッ!」 良吉の懇願するような眼差しを、天音は威圧的な眼差しで切り返す。 「無理だと言ったら?」 低く押し殺した声音に、良吉は肩を震わす。 良吉が言葉に詰まっていると、千鶴が一歩前に出る。 「無理だと言ったら、通していただくだけですよ」 「……そうかい」 千鶴とは初対面の天音だが、長年の勘で分かる。 迂闊な行動をすれば、地面に転がっている組員達と同じようになることを。 「ああ、そうかいそうかい」 天音は深々とため息をつき、両手を上げて降参のポーズをとる。 「アタシはこう見えても暴力は好まないタチでね。無駄に争うつもりはないよ」 本当に困ったもんだ、と天音は呟きながら一歩足を進めて千鶴に近づく。 「まったく、とんだお客さ――」 瞬間、天音は意図的に言葉を切り、懐から小刀を取り出した。 大きく踏み込むと同時に刃先を千鶴の喉元目掛けて突き出す。 一瞬の隙をついた天音の不意討ち。 強者に対しての最も有効な手段。 小刀は千鶴の喉元を貫く―― 「え……?」 ――はずだった。  
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