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「アホ、アホアホアホアホ! なんでいなくなっちまうんさね!」
怒気を孕んだ瞳で弥彦を見上げる。
「なんで死のうとするんさ!」
「……っ。良吉殿、何故それを……?」
「なんで勝手に消えちまうさね! なんで、なんで……!」
言葉が続かず、目蓋が熱くなり、喉が震えた。
言いたいことが山ほどあったが、堪えていた涙が溢れ出す。
それは風香も同じだった。
だから、二人共掴んだその腕を離そうとしなかった。
「早く! 一緒に行くさね!」
「行く……とは?」
「阪本のおっさんと平野のねーちゃんが待ってるさね! 早くしないと結婚式が終わっちまう!」
泣きじゃくりながら叫ぶ良吉に、弥彦は茫然とする。
「結婚式? 阪本殿と香苗殿が? ……何故、某を」
「なんで分からんさね! 阪本のおっさん達は弥彦兄ぃと仲直りしたいんさ! 友達なんだろ! なんでそんなことが分からんさね!」
「…………」
頭の中に浮かんだのは一通の封筒。
阪本達が弥彦宛てに送った封筒。
中身は読まなかった。
真実を知るのが怖くて、目を背けた。
自分が裏社会の人間だったばかりに、阪本と香苗を命の危険にさらした。
だから、二人に恨まれても仕方ないと弥彦は思った。
二人の真意は分からない。
分からないのではなく、分かろうとしなかった。
二人は今どうなっているのか。
二人にどう思われているのか。
恨まれていると分かっていながらも、それを知るのがどうしようもなく怖かった。
だが、実際に送られてきたのは手紙ではなく、結婚式の招待状。
何故そんなものを自分に?
その答えは過去の記憶にあった。
“お前に友人代表のスピーチをやってほしいんだよ”
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