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「弥彦! アンタは神宮会を裏切りつもりかい!」
叫ぶ。
「裏社会の誇りも! 仁義も!」
叫ぶ。叫ぶ。
「築き上げたものも全て捨てるつもりかい!」
張り裂けそうな声で天音はただひたすらに叫ぶ。
「神宮会を裏切ればアンタは落とし前も、けじめもつけることができないんだ!」
ああ、そうだ。
今になって天音は心の底から自分を嘲笑いたくなった。
あの坊やの言う通りだと。
「これから先、アンタはずっと罪の意識を背負って生きていかなくちゃならない!」
秋稔に言われた事を思い出す。
“本当は弥彦さんに生きてほしかったんじゃないのか?”
ああ、その通りだと。
「一生裏切り者として生きていかなくちゃならない!」
生きてほしかった。
けど、苦しんでほしくなかった。
「苦しみからも一生解放されない!」
ずっと苦しみを一人で背負ってきた弥彦を、楽にしてあげたかった。
「どうなんだい!」
だけど。
もしも、叶うのなら。
「アンタは……!」
誰でもいい。
誰でもいいから。
どうか、弥彦を――
「アンタはそれで本当に幸せなのかい! 弥彦ッ!」
――苦しみから救ってほしい。
「……天音殿」
全てを吐き出すように放った天音の言葉。
そこに込められた想いは憎しみではなく、弥彦に対する憂慮。
「…………」
弥彦はそっと良吉と風香の手から離れ、天音の方を振り返る。
そして、穏やかな笑みを浮かべた後、深く頭を下げた。
「ありがとう、天音殿」
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