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◇ ◇ ◇
19時50分。
大聖堂の式場で披露宴が行われている最中、秋稔は受付のロビーで窓の外を眺めていた。
夜に染まった街には冷たい雨が降り続く。
「秋稔君」
声をかけられ振り返ると、白いスーツ姿の阪本がいた。
「阪本さん……」
阪本と目が合うと、秋稔は暗く哀しそうな目を伏せる。
「すみません、弥彦さんは……」
「……そっか」
「もしかしたら既に会場のどこかに、とも思ったんですが」
何度も会場内や外を捜したが弥彦の姿はどこにも見当たらなかった。
まだ彼はこの会場に来ていない。
「…………」
間に合わなかった。
けして、その言葉を口にしたくなかったが、それは事実。
唇を噛みしめて俯く秋稔に、阪本はそっと肩に手を置く。
「ロビーじゃ寒いだろうから君も中に入りな」
「けど……」
「いいから、な?」
阪本は受付の係員に秋稔を従弟だと説明して、披露宴の会場に秋稔を連れていく。
中に入ると警察関係者や阪本達の両親、友人など、多くの人で賑わっていた。
新郎新婦席にいた白いドレス姿の香苗がこちらに気付き、秋稔に対して会釈する。
「秋稔君。ここで待っててもらえるかい?」
「ええ、構いませんけど……阪本さんは?」
「ああ、ちょっとな」
微かな笑みを浮かべて、そう言い残した後、阪本は新郎新婦席へと戻っていく。
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