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「ご安心ください。大人しくして頂ければ危害を加えたりはしません」
冷酷な瞳に秋稔を映しながら、宗形は警告の言葉を告げた。
「くっ……」
秋稔の額には冷たい汗が浮かび、麻酔銃を握り締めた手が微かに震える。
相手は戦闘のプロ。
もし麻酔銃を構えようものなら容赦なく引金を引いてくるに違いない。
だが、このまま黙って捕まるわけには――
「あのー」
と、和馬は額に銃口を突きつけられているにも関わらず、運転席に座り直して少し困った笑みを浮かべた。
「この車、俺のなんですけど」
「…………」
「このタイヤ、結構高かったんですよ」
「……そうか」
宗形の視線が一度和馬に戻る。
何故そんなことを今言う、と宗形は思案顔をしたが、そのまま言葉を続けた。
「それはすまなかったな。弁償はしよう。だが、その話は後だ」
「そうですかー。あ、それともう一ついいですか?」
「……なんだ?」
「このドアの修理代もお願いできますか?」
「……?」
宗形の眉が僅かに動く。
運転席側のドアは傷一つなく、修理の必要性は皆無。
「悪いがその必要は――」
と、宗形が視線を和馬に戻そうとした直後。
無傷のドアが勢いよく開き、
「ぐっ……!」
付近に立っていた宗形を直撃した。
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