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「……?」
秋稔は肩越しに振り返ると、駆け出そうとした足が止まった。
目を見開い視線の先にはコンクリートの床に転倒する和馬の姿が。
否、足をつまずいて転んだわけではない。
「やれやれ……油断した」
そこには三角ポールの山に崩れ落ちていたはずの宗形が、和馬の頭を左手で鷲掴みにし、床へと押し付けていた。
頭を打ち付けられて気を失っているのか、和馬はぴくりとも動かない。
「和馬っ!」
「楠木!」
七海と秋稔の声にも反応は無く、代わって宗形が低い声音で告げた。
「……大人しくして頂ければ危害は加えない。と申し上げたはずです」
これが一番隊隊長の実力。
音もなく、気配もなく、一瞬にして距離を詰め、そして制圧。
運動能力が桁外れの和馬ですら、宗形の足元には及ばない。
「くそ……!」
今ここで和馬を見捨てれば、まだ逃走できる可能性はあった。
だが、その選択だけは秋稔自身が許さなかった。
「楠木から離れろッ!」
脅しではなく、秋稔は麻酔銃を宗形に向け、躊躇わずに引金を引く――
「っ!」
――寸前で麻酔銃は宙を舞った。
「秋稔様。無駄な抵抗はおやめください」
宗形の右手に持った拳銃から硝煙が漂う。
相手の武器を狙撃することなど、宗形にとっては造作もなかった。
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