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「事態は一刻を争っているのです。いい加減諦めては頂けないでしょうか?」
銃口を秋稔に向けながら、宗形は冷たい声音で問う。
きっとその問いに意味は持たない。
今一度抵抗の意思を見せれば、引金を引くに違いない。
狙撃され、無力化にさせられ、それで終わりだ。
「ぐっ……」
追い詰められ、身動きを取ることが出来ない秋稔を見て、宗形は拳銃を下ろす。
もうこれ以上の抵抗は無いだろう、と宗形は判断し、和馬の頭から手を離す。
「西園寺様がお待ちしております。我々と共に参りましょう」
そう言って、秋稔のところへ歩み寄る――
「俺ぇ、まだ動けますよぉ?」
――刹那。
背筋に戦慄が走り、振り返ると笑顔の仮面が視界に映る。
同時に服を掴まれ、強引に体勢を崩されて。
「ぬ、ぉお!?」
宗形が思わず驚愕の声を上げたのも無理はない。
年下の人間に持ち上げられて身体が浮く経験などあるはずもなく。
しかし、それは一瞬のこと。
「そぉれっ!」
秋稔達の反対方向にある車目掛けて投げ飛ばし、ボンネットへ直撃させた。
宗形はそのままボンネットからコンクリートの床に崩れ落ちると、受け身を取り損ねたのか、すぐに立ち上がる事ができないようだ。
「あははぁ。すみぃません。その車の修理代は俺が払ぃまぁすねぇ」
「く、楠木……お前……」
驚きに見開いた秋稔の目には、こちらに背を向けて笑う和馬の姿が映っていた。
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