反逆の秋稔

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秋稔達の足音が遠ざかっていくのを耳にしながら、宗形がようやく立ち上がる。 「やれやれ……二度も油断してしまうとはな」 服についた埃を払い、こちらを待ち構えている和馬のところへ歩み寄る。 そして、対峙した和馬と目が合うと、宗形の眉が僅かに上がった。 「……確か、楠木と言ったな」 「はい、そーですよぉ」 その声はいつもの穏やかなものではなく、無邪気な子供のような声だった。 とても不気味で。 不気味で。 「……一つ、訊こう」 「なんですかぁ?」 「人を殺した事があるか?」 「あははぁ、そんなの無いですよぉ」 「人を殺したいと思った事はあるか?」 「言ってることがよくわかりませんねぇ」 「あるんだな?」 「あははぁ、そぉんなことをしちゃったら恭也達に嫌われちゃいますからぁ」 そう言って和馬は腰を落とし、低く構えた。 「じゃあ、本気で殴ったり蹴ったりしますけど、いいですよねぇ?」 「……やれやれ、懐かしいな」 宗形は前職の頃を思い返す。 あの頃は何度も、何人も見てきた。 もう縁が無いものだと思っていたが、また“こんな人間”に出会うとは。 「……自覚はあるようだな。なら、救いはあるだろう」 宗形は手に持っていた拳銃を懐に入れ、真っ直ぐと和馬を見つめる。 「元警察官として一つ忠告させてもらう」 和馬の目は――その狂喜に満ちた目は、虚ろで、楽しげで、幸せそうで、そして、 「その目はやめておけ」 黒く濁っていた。 「それは暴力で喜悦する殺人鬼の目だ」  
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