恋謳う

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『新しき周防の御子方よ。共に参りましょう…未来へ』 良かった。月下一族は那弥師匠の実家だからさ、やっぱり凄ぇ気になってたんだよな。 「ありがとうございます。未来(さき)を見て下さって。 約束しますよ。必ずや、泣く母親達が居なくなり、子供達が皆、笑顔で家の名も関係なく遊び、友となれる里にしてみせます」 『未来を、宜しくお願い致す』 俺の約束事に聞こえて来る月下族長の声のトーンは、何時もより少し高い。 喜んで貰えたかな?だったら、い~んだながな。 会釈をして帰っていく式達に手を振って見送った後、椿さんに向き直ると椿さんは泣いていた。 「…立派になって…早産で産まれてきて、泣く事を知らなかった、あの、小さな赤ちゃんがね…」 涙の止まらねぇまま椿さんは飛鳥の前に来ると目線を合わせ、頭を撫でる。 「貴女を取り上げたのは、私なの。周防の御子達の誕生は皆、私が携わったわ。 …真哉はね、『我等が期待を負い、一般社会へ捨てられし咲耶よ。守安一族1500年の悲願の子、理解者も無く籠に閉じ込められし小鳥よ。 何時かは伴侶の手で解き放たれ、蒼天へ羽ばたかん事を切に祈る』 …そんな想いを込めて“飛鳥”と名付けたの」 椿さんの話を聞き、鳶色の瞳が涙で滲む。 「…嬉しい…私に、こんなにも想いを込めてくれていたなんて…」 「でもね、これは力の至らなかった私達大人の、一方的で利己的な期待に過ぎないわ。 …産まれたばかりの赤ちゃんの背に護符を彫り込むなんて、酷い事までして…」 椿さんは右手で飛鳥の手を取り、左手で飛鳥の背中を擦る。…今も尚、そこに癒えねぇ傷があるかの様に… 「ごめんなさいね。痛かったわね…体も、心も…女の子の体に、こんな事をして…」 涙を流し謝る椿さんに、飛鳥は笑顔で首を左右に振った。
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