第九幕 痕

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「――春一は、小さい頃から死者や人じゃないものを視る、それもかなり強い力を持っていてね。物心つく前からそういった類を視ていた、稀に喋ったりもしていたよ。ところが五つを過ぎたあたりからそれの抑えが自分でできなくなっちゃってね、色々なものを無意識に引き寄せて、取り憑かれて……。幼いながらに結構苦労してたんだ」 大人と子供じゃ、まだ区別も心構えも全然違ってくるものね。 八重は続ける。 「それから少しして分かった。あいつは元から霊を体内に取り込みやすい霊媒体質だったんだって。その力と体質の所為で、周りの人間によく白い目で見られたりもして、人と接する事がだんだんと苦手になっていったんだよ」 それを聞いて。ナツメは自分と似ていると思った。そうだ――、自分も昔、人からそんな目で見られるのが怖くて、自らを閉ざしていた、今は別だけれど。 「でも。それよりも、あいつを苦しみの地獄に突き落としたのは、親父だったんだ」 「ハルさんのお父さんが……」 「二年前に死んで、もういないんだけど……」 八重はそこまで言い掛けると、一旦間を置いた。 なにか戸惑うように目を伏せ、暫くして再び言葉を吐き出した。 「……あいつは、昔。――親父の商売道具だった……」 「……え……」 道具……。 春一が。 何故……。 「道具って、どういう……意味なんですか」 八重は目を伏せたまま言う。 「この寺はね、昔から憑きものを祓う仕事も請け負っていたんだ。春一がまだ小さい頃、親父は春一の体質を利用して……」 ――悪霊をあいつの体に憑依させて、祓い始めたんだよ……。
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