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「うるさいな、冬吾、朝から元気あり余りすぎ」
不機嫌そうに振り向くナツメに笑って、冬吾と呼ばれた男子生徒はつけ足した。
「まぁ嘘は言ってないだろー、お前結構有名だもんな、幽霊みえるって」
「シッ!大きい声で言わないで!聞こえちゃう……!」
ナツメが顔を顰めて口の前で人差し指を立てれば。おっと、と彼は口を塞ぐ。
「わりわり、怒るなってば」
「怒ってない。でも……新しいクラスで変な目で見られるのは、いや」
「相変わらず苦労してんな、お前も」
“幽霊が視える”。
そう、彼が言ったのは嘘ではなく正真正銘の本当の話。
それこそ先程の質問攻めの原因と言っていいものだった。
肩甲骨辺りまでだらんと伸ばされた長い黒髪、教室の中でも一際小柄で、太陽の真下にでも立たせれば直ぐにでもよろめいてしまいそうなぐらい、ひ弱そうに見える彼女は――白崎 ナツメ(しらさき なつめ)。
現在、都内の公立高校に通う高校二年生。
成績も体力も見た目も、特に抜きん出ているものはなく、言うならば良くも悪くもといったところで。
その性格は極めて内気で、苦手なことは目立つこと。
人の注目を浴びるなど、彼女の中では言語道断。
それ以上に彼女がなんとしてでも避けて通りたいと思っていることは、人と争うこと。
そんな引っ込み思案で、気弱で、ただとにかく普通に静かに生きていたいという願望を持つ彼女だが。
普通とはかけ離れ。
周囲の人間を引き寄せるものを、人とは唯一違うものを。
たった一つだけ持っていた。
この世のものではない異質な存在。
死者と呼べる存在を視ることのできる能力を――。
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