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暑さからじゃない汗がじとりと、額から浮き出る。
かつてない未知との遭遇に、ナツメは扉の前で潜めた息を小さく吐きながら、困惑と共に何故か恐怖ではない、腹の底から込み上げるこそばゆい何かを感じていた。
頭の奥がくらくらする。
指が、震える、呼吸が乱れそうになる。
それが高揚感なのだと自覚する前にナツメは、扉から添えていた手を放した。
はやく――。
はやく、はやく――。
この事を春一に伝えなければ。
春一にこの光景を見せなければ。
手の中に捕らえた真っ黒でフワフワしている珍しいそれを今すぐに持って行って、見せに行きたい。分かり易く言うと、そんな心境だった。
こうしちゃ――いられない。
なるたけ冷静に、冷静にと自分に言い聞かせ、ナツメは後ろ向きに廊下を下がろうとした。
だが、これ以上ないくらいの超非現実的なものを目の当たりにした所為で、ナツメは忘れていたのだ。
この家の床板はかなり古く、軋みやすいものだということを。
ぎしッ……………。
引いた一歩で派手に悲鳴を上げた床板。
――しまった。そう思った時には遅かった。
「――――!!」
扉の隙間から見えていた円陣を組んだ連中が顔を一斉に上げ。扉の向こうにいたナツメの姿を捉えた。
無数の視線が一気に集中する。
恐ろしいくらいの静寂が生まれる。
ま、まずい。
気づかれた。
彼らを見ていて、その奇妙な姿形に驚きはしたが、恐怖は感じられなかった。
それでも、春一と違ってこんな対抗手段も持たない無力な自分が、襲われないなんて保証はどこにもないのであって。
こちらは一人に対してあちらは多勢。
これは、その……。
逃げないと……。
まずいんじゃないか……。
ぎょろりとした眼をこちらに向けた彼らが、間髪入れずに襲ってくるんじゃないかと瞬時に想像したナツメは、押さえていた焦りを破裂させ、全速力でその場から離れるべく走り出そうとしたのだ、が。
そうする前にナツメを真正面から吹き飛ばすようにして襲ったのは。
「あ、あっ……」
彼ら。ではなく。
彼らの口から放たれ連なりあった。
大絶叫。
すなわち、悲鳴。
すなわち、阿鼻叫喚であった。
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