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「痛ッ――」
突っ込みどころ満載の台詞とリアクションを起こし、ぎゃあぎゃあ騒がしい声をあげながら部屋中を駆け回っていた巨大な三毛猫が開け放たれた窓から身を投げ出そうとしたその直後、そこに張られた見えない壁にでも衝突したように空で動きを止め畳に叩きつけられた。
ずどん――と派手な衝撃と音が畳に吸収される。
「オイ嘘だろ!!」
「出られない!閉じ込められたッ……!!」
「いやァアアアッ!!」
小さな悲鳴を零して跳ね飛ばされた三毛猫を見て、更に炎上するパニック。
ある者は押し入れの影に転がり込み、ある者は粒子のように空気中に溶け、畳まれた掛け軸の隙間に消え、ある者は天井に張り付き、またある者は泣き声を上げながら部屋の桐箪笥のてっぺんまで上り身を縮める始末。
一人逃げ遅れた巨大な三毛猫はぶつけた頭部が相当痛むのか、頭を抱えて畳の上を唸りながらのたうち回っている。
その姿があまりにも痛々しくて可哀想で、ナツメは何故かとても酷いことをしてしまった罪悪感にかられて、顔だけ出していた和室に踏み込み、その猫に近付こうとしたのだが。
「ひにゃああああッ!こっち来ないでぇえええ!!」
当然の如く拒まれる。
「じっちゃああああああああ!!」
ナツメの体の倍以上もあるその猫は尻尾を腹まで丸め、部屋の隅まで這い蹲って逃げていく、まん丸の瞳を潤ませて、鬼に懇願するようにこちらに訴えてくるものだから。
余計に警戒を解きたくなる。
「だっ、大丈夫だよ、わたしなにもしないよ――!」
そんなことが信じられるか、あっち行け、近付くなと、四方八方から投げられる小石みたいな罵声を受けながら、精一杯相手を安心させる笑みを作りながら、こちらが何もしない、無抵抗だということを知らせるように、身を屈めて。
「大丈夫……なにもしないよ」
息を潜めて、ゆっくりゆっくり距離を詰めていこうとしたら――。
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