第十五幕 九十九

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高まりすぎた恐怖が頂点に達したのだろう。 「くっ、くるなって――」 三毛猫は。 弱き者も窮地に追いつめられると強き者に反撃することがある。 ――『窮鼠猫を噛む』――。その意と同じくして全身の毛をぶわりと逆立て、手を伸ばして後一歩というところまで距離を縮めたナツメに向かって低い声で威嚇し、右前足を高く高く振り上げ、強く目を瞑ったまま。 「言ってるだろぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 力いっぱいナツメを薙ぎ払おうとした。 体毛で覆われた太い前足に隠されていた鋭い爪、それが、細いナツメの体を捕らえるか捕らえないかの。 その間際。 「――止めぬか猫。人に幸福を招き入れるお前が、人を自ら不幸にしてどうする」 不意の攻撃から逃れようと畳の上に体勢を崩したナツメの背後から、低い男の声が響いた。 剥き出しになった刃を鞘に納めようとするような、そして恐れを根底から取り除いてやろうとするような、落ち着き払った印象の声。 「そんなことをすれば、一番悲しむのはジイさまだ。お前もよくわかっていることだろうよ」 「大将……っ」 天井から落とされた声。 目を丸くして、前足を静かに下ろす猫。 騒然としていた空気の温度が一気に下がる。 恐る恐る振り返ってみれば。 薄鈍色の着物の肩幅の広い――鬼の顔。 ではなく、嫉妬に狂った鬼女の顔を模した能面。般若面を被った初老と思わしき男が腕組みをしながら半開きになった襖に背を預けてこちらを見ていた。
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