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口を開いたまま、三毛猫はとてつもなく気まずそうに尾と耳をぺたりと下げて、小さく唸ると、首に括りつけられた鈴を鳴らして、背を低くして怯えた仕草でその般若面の男の後ろに隠れた。
と言っても、体が大き過ぎて全く姿はくらませられていないのだが。
「図体だけでかい臆病者が、恐怖で我を忘れるなど情けないことだと思わんか」
「…………ごめんなさいです……」
べったりと男に身を寄せ、猫が詫びるように一声鳴けば、男は手馴れたように猫の巨大な顎下に手を入れ撫で始めた。
やはり体躯は通常のそれとは掛け離れていても、そこを触られて心地よく感じるのは同じ種という証拠なのだろう。
巨大猫は目をうっとり細めながら髭を震わせ、喉をごろごろと鳴らす。
「身内の無礼を詫びよう。済まなかった、怯えていただけで彼らに悪気は欠片も無いのだ、どうか許してやってくれ」
猫を説き伏せ、落ち着きを取り戻させた後に般若面の男はナツメの手を取り、その場から立ち上がらせた。
「此処最近見知らぬ輩が家に立て続けに侵入してきた所為で、皆少なからず困惑していたのだ」
厳つい表情のままの面の下から出される声は、少しも動揺を孕んでおらず、怯えるどころか逆に動揺しているナツメを落ち着けようと言葉を足していく。彼はこの奇妙な連中の中で唯一人に近い。というより人そのものの姿をしていた。
「ああ、この姿は前の持ち主である歌舞伎役者の姿を借りているのだよ、私も彼らと同じ類のものに相違ない」
「あなたは……、あなた達は一体……」
般若面の男の登場に、天井に張り付いていた龍、桐箪笥の上によじ登っていた虎、掛け軸の中に身を隠した鶴と亀が顔を見合わせ床に降りてくる。
「皆隠れずともよい。彼女は私達の姿を視て、声を聴くことができる、清らかな心を持った人間だ。私達に害はない」
その呼び掛けに、押し入れの戸の影に隠れていた赤い着物のおかっぱ頭の少女、鎧武者、尻尾の無い白い狐、笠を被った狸、続けて達磨を抱いた童子がおどおどしながら出てくる。
「ほんとになんもしねよな?」
狐に疑り深そうに訊ねられてナツメは、しないと深く頷いた。
ナツメの目を暫くじっと見て、狐はほっと小さく息を吐いた。
「大将の言った通りだな。この子は危険じぁね」
「んだ」
狸もそれに頷く。
「じっちゃと同じ匂いがするべよ」
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