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「本当に?いじめない?」
「俺らに火を点けたり、破いたりしねぇか?」
不安そうに首を伸ばして言ってきたのは、おかっぱ頭の少女と獰猛そうに見えて少々腰が引け気味な虎。
「怖い男の人はこれからまた此処にくるんでしょう?」
「そうであった。あの恐ろしい御人を呼ばれてしまうと拙者達は少々、いや物凄ぉおく困るので御座る。どうかそれだけは勘弁願いたいので御座る。」
「取り敢えずなにもしないというのなら、おまいさん、そこの四隅の香をなんとかしてくれないかい。この部屋に閉じ込める上にあれはあたしらの鼻にはちょいとばかし刺激が強すぎるんでい」
新緑色の鱗をした龍に不満そうに言われて、ナツメは警戒を解くため四隅に仕掛けた香を回収し、それを窓の外に捨ててやった。後で春一になんと言い訳しようか頭の隅で考えながら。
しかしそうする事で、彼らは漸くナツメに抱いていた恐れを解消させたようで、少しずつだが、男の背後から顔を出してナツメの傍に寄ってきた。
「ふう、濁ってた空気がやっと澄んできたね」
「ありがとうな、あんたはええ人だ」
「お姉ちゃん、ありがとう」
羽の付け根を啄く鶴、ゆっくりな秋田弁で喋る狐、おかっぱ頭の少女に同時に礼を言われてしまった。
この珍妙な光景がまだ現実だと信じきれない。白昼夢でも見ているのかとさえ思いつつ、今度はナツメが眼前の変わり者たちに訊ねた。
「あなた達は、その。妖怪……なんですか」
すると、問いに答えてきたのは般若面の男。
「そうか。我々はそのようなものとして今まで騒がれていたのだな」
「違うんですか……?」
「私達は妖怪と名のつくほど大した存在ではないよ。さして珍しくもない、今の時代には馴染み多い存在だと自覚しているがね」
確かにこうして人の目に映ることは極めて稀であるが。と、般若面はくつくつ笑う。
「私達の正体は、このボロ屋に集められた、使い古しのガラクタだ」
「がらくた……、あなた達が」
ナツメはダンボールに詰められた桜井氏の祖父の収集品を見直す。
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