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「そう、人間に用済みとされ、待っていれば燃やされるか砕かれるかという運命だった。そんな折、この家の主であるジイさまが我らの声や願いを汲み取り、此処に置いて下さった」
般若面の男は語る。桜井氏の祖父は自分達の姿を視ることが出来ずとも、声を聞き取ることのできる、良い耳を持っていた人だったのだと。
「物好きなジイさまさ。長い間使われ、人間の近くにいた私達に心が宿っていることを知ると、気持ち悪がって捨てるどころか、私達を布で拭き、労りの言葉を掛けた、まるで人間に接するようにな」
「人間は傷がついたり汚れたりすると、直ぐに物を捨てる」
「仕方ないさ、人間ってのは常に新しい物を求める生き物。そう覚悟はしていたけど」
「やっぱりまだ、使って欲しいっていう気持ちはあるもんだべ」
「んだ」
「それでもね、お祖父ちゃんは古くなったワタシ達でも良いって言って、いっぱい話しかけてくれたんだよ」
どこで使われていたのか。
どんな人間の元にいたのか。
使われていて、その場所にいて、どんな気持ちだったのか。
「じいちゃんは話好きなヤツだったさ」
「そうそう、勝手に話し相手にされて、いつまでも付き合わされたっけ」
「特に戦の話になると長かったで御座る。」
「あの話は俺ぁ耳にタコが出来るくらい聞いたぜ、露すけ(ロシア)に捕虜にされた時がどうとかよ」
「酒も好きだったよね。いいちこ」
「料理も上手くてね、きんぴらごぼうと白菜の漬物、あれをよく作って皿に乗せてあたしらに供えてくれたよ」
「んだ」
「野球観戦になると人が変わったりしてよ」
「元気なお人だったべよ」
「死ぬまで杖いらずとは大したお方だった」
「ああ、大往生だ」
彼らは至極楽しそうに口にする、自分達の持ち主がどんな人間だったか。
古くから付き合っている友人の一人を紹介するように。
ぼんやりとしたイメージだった桜井氏の祖父の姿が、ナツメの頭の中にはっきりと浮かんでくる。
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