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この広い家で、ただ一人の孤独を埋めてくれる、唯一の話し相手、彼らは物でありながら心を持った、桜井氏の祖父の友人でもあったのだと思う。
そして彼らも、こんなにも彼の祖父を慕い、一度は捨てられた身をこの場所に留めてくれたことに感謝と尊敬の念を抱いていた。
傍から見れば奇妙な関係だったのかもしれない。それでもそこには、硬い繋がりがあったのだ。
人と、人でない心を宿した者たちによる。
絆というものが。
「一つ、頼み事を聞いてくれないか」
怯えの中に覚悟を固めた瞳を揺らす彼らの中から一歩前へ出て、般若面の男はナツメの前に白い封筒を差し出した。
「これは……」
「坊ちゃんにと、ジイさまが書いていたものだ。書斎のアルバムに挟まっていたが、気付かれぬ可能性が高いと思って抜き取っておいた」
直接渡さなかった、気がつく場所にあえておかなかったということは、なにか伝えにくい内容であるのだろうと、般若面が言う。
「ジイさまは肉親に対しては頑固な一面もあったのだ、恐らく口では到底伝えられぬことでも記してあるのだろうが。だとしても、読まれぬよりはましであろうよ……」
「わかりました。桜井さんに必ず渡します」
「口には一度たりとも出さなかったがな。あの人はきっと……寂しかったのだ。その隙間はどうしたって私達が埋めきれるものではなかった。あの人は待っていたのだ、坊ちゃんが此処に来るのを、家族が会いに来るのをな……」
口に出さずとも、それだけはわかっていた。
「それもよければ、伝えてくれぬだろうか……」
あの人が最後の最後に言いそびれた、本音なのだろうから。
そう言って、般若面はナツメに封筒を託した。
「さあ、そろそろ彼がこの場に帰ってくるだろう、私達は再び物に戻るとしよう」
「はなし、聞いてくれてありがとう。お姉ちゃん」
「あの、さっきは引っ掻こうとしてごめんよ……。さようなら、君はいい人だったよ、じっちゃの次にね」
「短い間であったが久方ぶりに人と会話が出来て良かったで御座る。」
「燃す時はひと思いにやってくれよ、じわじわ炙らないでくれ」
「おまいさんはしつこいよ、腹くくんな阿呆が」
「そんなに深く考えないでいいよお嬢ちゃん。あたしら消耗品なんだ、いずれはこうなる運命なんだから」
「だよ、充分長生きしたべ、これでええ」
「んだ」
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