第十五幕 九十九

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般若面、おかっぱ頭の少女、三毛猫、鎧武者、虎と龍、鶴と頷く亀、尾のない白狐、相槌を打つ狸。 続けざまに声を掛けられ、ナツメは心の内に恐ろしい程どっと込み上げてくるものを感じた。 これでいい――、なんて思えるわけがない。 彼らだって心の底ではそう思っていないはずだ。 もっと此処にいたい、好きだった桜井氏の祖父が遺したこの家を仲間と共にこれからも守りたい。 本心はきっとこうであるはずだ。 いくらそれが依頼人の望みであっても。 このまま戻ってきた春一に従い、彼らを殲滅することなど、できるはずがない。 物でありながら、こんなにも綺麗で純粋な心を持って彼の祖父の遺言を忠実に守ろうとしているのだ。 自分が実際視て、彼らの声を一番近くで聴いたのならば――。 全てが全て思い通りにいかなくても、なにかしら流れは変えられる。 彼らが化け物ではないと、人に危害を加えようとしていたわけではないと証明できるのは自分だけ。 今此処で聞いたことを全部、春一や桜井氏に聞かせるのだ。……そうすればきっと。 「わたし、頑張って説得してみます」 春一を納得させるのは至難の技だろうが、それでもいい。 守りたい。なんとしてでも守りたくなった。彼の祖父が遺したこの家と、彼らのことを。 そうしないと。 彼の祖父が大切にしていた、カタチ無きなにかが、消えてしまいそうな気がするから。 きっとそれは、振り返って気付いた時には、もう二度と取り戻せない大事なものなのだろうから。 「絶対に、なんとかしてみせますから」 だから、大丈夫――。 強い眼差しで告げるナツメを見て、彼らはお互いの顔を見合わせる。 遠くの方から、足音が聞こえてきた。 「その心だけでいい」 「いいえ、わたしが納得いきません。今見たものを、見なかったことに、聞かなかったことになんかしたくないんです。難しいと思うけど、やってみます」 「そうか……済まない、有難う」 礼を言う般若面。そして最後にと、こんなことをナツメに言う。 「彼は――君の想い人なのかね」 「ふァッ!?」 「なんだ、そうではないのか」 「ちょっ、なに言ってるんですか、いきなり」 今日二度目の奇声を発して、ナツメは般若面に誤解だと訴える。 まさか人ではないものにもそう思われてしまうだなんて。
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