第十五幕 九十九

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「あの人とは……ただ成り行きで一緒にいるだけです。でも……あなた達にとってお祖父さんがそうであったように、わたしにとってあの人は、自分を変えた恩人でもあるんです」 足音が徐々に近づいてくる。 「そうであったか、それは失礼した」 「いや、なんでそんな話……」 「私達の気持ちに耳を傾けてくれた、その礼にと思ってだな……」 般若面が小さく咳払いし、付け足す。 「気を悪くするようだろうが、率直に言おう。あの青年とは、これから先、なるべく深くは関わらない方がいいだろう」 「……え――」 「なんと表せばいいのか言葉に困るが、彼はなかなか難儀な運命を背負って生きている。それこそ――普通の人間が背負い込むものとは桁違いのものをな……」 「それって……」 「そう遠くない未来に、貴女はその意味を理解することになるやもしれん」 般若面が黙り、言い渡された思いがけない言葉にナツメも黙り込む。 「どう捉えるかは貴女次第だ。だが、あの青年には並大抵の人間では耐え切れぬだろう……、だから――」 「わたしは……っ」 その先を言われる前に、言葉で遮った。 無意識に、その先に続く言葉を恐れ、そうしたのかもしれない。 「あの人に、今まで何度も助けられてきたんです、それなのにまだ一度もあの人に、恩返しが出来ていないんです」 それだけでなく、まだ春一のことを殆どなにも知れていない。 他とは少し違うということぐらいしか……。 「だから恩返しがちゃんとできるまで離れられないんです、なにがあっても。これは自分の心で決めました。誰に言われても、譲れません」 ナツメは毅然として応え。 「それにあの人に大変な時があったら、その時は、今度はわたしが助けます。わたしは、あの人の助手だから――」 揺るぎない視線のまま、小さく笑んだ。 「つまらない事を口走ったな」 般若面はそんなナツメから何かを感じたのか、それ以上言うのを止めた。 足音が近づいてくる――。
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