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「え」
意味ありげに春一が部屋をぐるりと見回すのに習って、ナツメも振り向いて和室の中を見る。
今の今まで襖に背を預けていた般若面の男も。巨大な三毛猫も、秋田弁で喋る白狐も、おかっぱ頭の赤い着物の少女も、鎧兜の武者も。
どこにもいない。
倒されたダンボールの中から飛び出した招き猫や、般若の能面、畳の上には無造作に畳まれた鶴と亀の掛け軸、市松人形が寂しく転がっているだけ。
今のは夢……。
そう思った矢先、ナツメは右手に握っていた封筒の存在に気がつく。
「っ――」
般若面の男から託された、桜井氏の祖父の手紙だ。
やっぱり。
「夢じゃない……」
「どうやら対話には成功したみたいだね」
春一は転がった招き猫を拾い上げてナツメに言う。
「たい、わ……?」
「話しただろ、彼らと」
「どう……いう、こと……?」
なんでそのことをと、ナツメが目を丸くして聞けば、春一は意地悪そうな顔でクスッと笑って応えた。
「全部計画通りに進んだってこと」
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