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「わたし……、今の自分が嫌い……」
なんでそんなことを口にしてしまったのか分からないけれど、彼はそう、と一言返してくれた。
「……かわりたい……ずっと、このままは、いや……」
呟いて、ナツメの意識は暗闇へと沈んでいった。
「思った以上に悪い方向に行っているね……」
眠るナツメを見下ろしながら、彼が呟く。
「このままじゃ、振り回されてぼろぼろになるよ。自分の一部はどうしたって切り離せないものなんだから」
右の掌をナツメの額に軽く重ねる。じゃらりと左腕と色違いの黒い数珠が音を立てた。
「君には難しいことなんだろうけどね、……おやすみ」
拒めば拒むほど、もがけばもがくほど。泥沼に嵌った足は抜けず、沈んでいく。
がむしゃらに動けば、気がついた時には全身が沼の中。
「そんな状況になって、初めて気付くことも、あるのかもしれないけど……」
鷹の瞳を細めながら、そう言い残し、春一は保健室から去っていった。
第三幕に続く――。
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