第十幕 夏祭り

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バターはボウルに入れて泡立て器でクリーム状に練り、砂糖を2~3回に分けてバターと一緒に白っぽくなるまでよく混ぜ合わせる。 溶き卵を少しずつ加え、再び泡立て器で混ぜ、薄力粉とベーキングパウダーを合わせてふるったものを入れ、ゴムべらでさっくりと混ぜたら今度はそこに湯煎で溶かしておいたチョコレートを流し込む。 食感を楽しむために砕いたナッツを適量散らし、生地は完成。 オーブンシートを敷き詰めた型に流し、何度か上から下に落として空気を抜き。 170度のオーブンで40分少々焼く。 後はキッチンから香ばしい匂いが漂うまでのんびり待つばかり。 竹串を用意して、使ったボウル達を洗い終えると。 ナツメはエプロンの紐を解いて一息つく。 『チョコレートのパウンドケーキをまるごと一本食べてみたい』――。 そんな男子高校生が発するとは思えない独り言を図書室の窓辺でさらっと口にした春一を見なければ。きっと日曜日の夕食後にこんなことをすることは無かっただろう。 料理は別に嫌いじゃない、というより好きな方。一部の曜日を除いては、食事の用意のほとんどを任されているし、亡き母に代わってもう何年も続けてきた習慣である為、レパートリーにも自信がある。 焼き菓子は久しく作っていなかったし。この間の御礼も兼ねて、彼のささやかな望みを叶えてあげようと、こうして実行に移してみたわけだ。 生地はしっかりと真っ赤なオーブンの中で膨らんでくれている。 うまく焼ければ、外はカリカリ、中はしっとりの特製パウンドケーキの出来上がり。 焼き上がりが楽しみである。 審査員は毎度お決まりの、父親と弟の二人。 味はともかく、小さなシリコンカップに入った試食用を食べたあと、綺麗にラッピングされた、まるまる一本のチョコレートパウンドケーキ、それを一体誰に渡すのか。なんて聞かれたら、どう答えようかと、ナツメはオーブンの扉を覗き込みながら思うのであった。
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