第一夜

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『この近くを一緒に歩きませんか?』 そう訊くと、大きい手で被っていた麦藁帽子を奪い、もう一方の手が私の頭に降ってくるの。そこから温もりを感じていると、せっかく整えていた髪をぐしゃぐしゃになるまで撫でまわしてきた。 本当はそこであなたの名前を呼んで怒りたいのに、あなたはいつも名前を教えてくれない。 「わっ」と私の声が風に消えるだけ。私が驚いて怒ると、あの人は椅子から立ったと思うと私の前に手を出して、また1つ笑いかけてくれるの。 ズルい…。それで私が何もかも許してしまうのを知っているね。 それでもその手を取って幸せだなぁ…って思ってしまうのは私だけど。 今度またあなたに逢えたら、聞いてみたい事が沢山あるの。 『ねぇ、聞いてくれますか?』 ・ この言葉に返事が来るのを信じて……
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