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「えー、諸君らにもプリズムを見たことがある人はおりましょうが」 静寂が積もった教室に、先生の声が響く。「諸君」なんて古風で奇妙な呼び名を笑う声は無い。  窓を見ると外は晴天で、少し黄色がかった光が、桟の地層の石英に反射されている。石英は他の土色の鉱石の間から顔をのぞかせ、ひっそりと光っている。グラウンドの遠くの方で、土煙がこちらに向かっているのが見えた。この石英は、もうすぐ吹き飛ばされて、どこかのつまらない砂場に埋もれてしまうんだろうと思う。思って、自分の気障な考えに鳥肌が立った。私の考えにしてはあまりにロマンチックだった。 「プリズムを通してみますと、光は七色、正確に言うとそれよりもっと多くの色になって出てくるわけですが、これは光の要素が分かれているに過ぎない。光はいつも透明に見えますが、それは、気が遠くなるほどたくさんの種類の色が混ざり合って、透明にしているにすぎないんです。この、光を作る色の要素を、スペクトル、といいます。」  誰に聞かせているのか、浮かれたような声で先生は語っている。  私は、そんな先生の前で、小さく「スペクトル」と呟いてみる。質感の無い音が、唇の隙間からもれだして、ふわふわと天井に浮かんでいった。窓のほうを向く。窓の外では相変わらず日が照っているが、光は近づいてきた砂煙にあたって、茶色く光っている。 桟にあった土の山は、もうどこかへ行ってしまっていた。桟の脇にあるアンモナイトは、ガラスをくぐった光を受けながら、なおくすんだ泥の色をしていた。  もう一度「スペクトル」と呟いた。異国の呪文のようなそれは、依然としてふわふわと、白黒の時計の周りをいったりきたりしていた。
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