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里村さんと二人で外に出て、除雪された道を並んで歩く。
しばらく無言だった。
連れ出してみたはいいけど、かける言葉はない。
歩いているとタクシーが里村さんの別荘のほうへ向かっているのが見えた。
ユキさんが呼んだのだろう。
本当に帰ってしまうつもりなんだろうか。
「…子供相手に僕も大人気なかったなとは反省してる。僕が大人になれない子供なんだけどね。図体でかいくせに子供っていうのもおかしなものだけど」
里村さんはタクシーのほうを見ながら言った。
「ユキさん帰してしまって本当にいいんですか?…というか、あれ、里村さん探してませんか?」
タクシーのまわりに人が見える。
タクシーはしばらく停まったまま動かない。
「ユキに言ったとおりにモデルに頭を下げる気はないんだよ。テレビでよく見るくらいの芸能人や世界的に売れているモデルなら別かもしれないけど。そんなの使う気もない。そこまで老舗ブランドでもない。ユキは僕から見れば、少しばかりモデル経験年数があるだけのティーンズ雑誌のモデル。ショーのモブにもならない目立ちたがりの高飛車。モデルとしては底が知れたもの。負けん気ってやつは認めるけど、負けるべき場所を知らない子供。……必要ない」
「私と競わせたいんじゃないんですか?」
「そのつもりだったけど僕と競ってくれるからね。僕に認められたいらしい。…色仕掛けされても、ねぇ。モテない親父じゃあるまいし。ピカルより前に出るのはユキの場合構わない。航の場合はひいてもらわないと僕のブランドがメンズになる。レディースメインなのに。…ってわからないんだよね。わかってもらおうとするのも面倒。そこらへんが僕も子供。モデルじゃないからとひき気味になる緒方を使えれば楽なんだけど、あれは自分に自信なさすぎる。
これ全部、失敗したよなぁとやる気なくなってきちゃった」
愚痴、なのだろう。
私は里村さんを見上げて黙って聞いて、走り出したタクシーを見る。
ユキさんが乗ったかどうかは遠目からはわからない。
「……やる気になってくれないと私が困ります」
「だね。スタッフ全員困るね。…でも疲れた」
「ちょっと屈んでくれたら頭撫でてあげます」
言ってみただけなんだけど。
里村さんは雪の壁に体を預けるように屈んで、私は少し背伸び気味にその頭を撫でる。
里村さんは小さく笑う。
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