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別荘に戻るとユキさんは帰ってしまっていた。
私は里村さんにお姫様抱っこされたまま連れて帰ってもらって、スタッフの人たちにひそひそされる。
色仕掛け…はしていないと思うけど、なんとなくそう思われていそうだ。
えちなことされちゃったし…。
里村さんを連れ出して、和解させるよりもユキさんを帰すことになっちゃったし…。
撮影用の靴なのに外を出歩いてしまって、靴を拭きながら息をつく。
ドキドキは思い出すとまだ止まらない。
里村さんは本当は安全な人じゃないと思う。
里村さんは緒方くんを口説きまくって、緒方くんはとうとう折れた。
ユキさんが帰ってしまったからっていうのもありそうだ。
服を着替えて、松谷くんと並んで里村さんの話を聞いている緒方くんを見る。
かっこいい。
松谷くんと並ぶと少し背が低く見えるけど、私にはじゅうぶんかっこよく見える。
3人での撮影をして、着替えてまた撮ってを繰り返す。
緒方くんが不機嫌ながらもやってくれているのを見て、思わずうれしくて笑顔になる。
冬物の撮影は日常的なもので撮られていく。
ごはんを食べているときも撮影。
なるべく3人でいるように言われて、トランプで遊んでいても撮影。
常にカメラを向けられている。
でも和哉さんがカメラから離れれば、やっと少し落ち着く。
なのにシャッターを切る音。
私と松谷くんはびくっとしてカメラのほうを見る。
カメラを手にしていたのは緒方くんだった。
「少しは休ませてくれ。友達と撮ってるわけじゃないんだし、全国の人が見るかもしれないもの。そんな下手に映れない」
松谷くんは言って、私はうんうん。
…私は下手に映りまくってるかもしれないけど。
「松谷もヒカルも気を張りすぎ。俺なんてなんにも考えてない。それでいいって里村さんに言ってもらってるし。モデルらしくない素の表情でいればいいんだよ。松谷はそのままで男前。ヒカルもかわいい」
緒方くんはまたシャッターを切る。
「この仕事で顔売って仕事増やしたいのに。俺にとっては大きな仕事なんだよ、これ。ユキは簡単にやめて帰ったけど、俺は帰れない。意地でも使ってもらわないと」
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