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わかっていてもわからなかった。
彼がカナちゃんと帰る後ろ姿をただ見ていた。
見ていることしかできなかった。
一人残された教室で泣いてみたって何かが変わるわけじゃない。
見ているだけでうれしいって…私は思っていたわけだし。
彼に彼女ができたって…。
だけど、でも…。
私に何も気を遣うこともなく、私がいいなって思っていたこと知っていたくせに…なんて、カナちゃんを逆恨みして泣いた。
カナちゃんは昔から行動力のある子だった。
私はどっちかと言えば引っ込み思案。
私の手を引っ張って歩くのはカナちゃんだった。
失恋…なのか、よくわからない。
わからないけど、なにもしなくても日々は過ぎていく。
カナちゃんとは同じクラス。
カナちゃんがたくさんの友達に囲まれて大きな声で笑って話しているのを横目にちらっと見て、私は自分の席で昼休みの時間を過ごす。
彼という彼氏がいるのに、カナちゃんはいろんな男の子と仲良しだ。
私にはとても真似できそうにない。
「カナミ、おまえ、笑いすぎ」
なんていう彼の声を耳に聞く。
「だって健吾が笑わせるから」
なんていうカナちゃんの声を耳に聞く。
あまりカナちゃんと彼の会話を聞きたくないと思うのは嫉妬だろうか。
聞いていても私は楽しくもない。
小さく溜め息をついて、ふと何か視線を感じた気がして顔を上げると、私の目の前、頬杖ついて私をじっと見ている男の子がいた。
思いきり驚いた。
思わず悲鳴をあげそうになった。
まったく気がつかなかった。
「…笹原さんっておとなしいというか、暗いというか」
なんて私をじっと見たまま言ってくれる。
笹原ヒカルが私の名前である。
暗いと言われてもうれしくない。
そう思うなら近寄ってくれなくていい。
声をかけてくれなくていい。
私には男友達なんていたこともないし、男の子といつ話しただろうっていうくらい話していない。
俯いて視線を逸らそうとしたら、その男の子は私の視線を追うように私の目の前に顔を見せてくる。
どう反応していいのかわからない。
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