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緒方くんと何も話さなかった。
緒方くんも私に声をかけてきたりはしなかった。
それでもふと視線がぶつかる。
私の目は緒方くんを探してしまうらしい。
ユキさんと松谷くんの撮影から始まって、自然な笑顔を見せる二人をプロだなと眺める。
どうやって笑えばいいのかわからない。
里村さんにかけられたプレッシャーもあって、なんとかしないとと思ってみても、私はとてもユキさんの真似をできそうにない。
それでも撮影の順番が回ってくる。
不安で泣きそうで、こわくて。
私を見ているすべての視線から逃げたくなる。
自信ある子のほうが…緒方くんはいいのだろうし。
半年近くもモデルやらせてもらってるし。
自信持ちたいのに、私は俯いてしまう。
「ピカちゃん、どうした?もっとリラックスして」
なんて和哉さんに声をかけられて、がんばって顔を上げると、松谷くんの笑顔が見えた。
「大丈夫。いきなり恋人同士みたいにって言われても無理だよな。さっき会ったばかりなのに。ユキとは前にも撮影一緒にやったことあるけど、ピカちゃんとは初だし。でもちょっとだけ手を握ってもいい?」
松谷くんの言葉に頷くと、私の手を包むように握ってくれる。
そのまま松谷くんがリードするように私を動かしてくれた。
顔をできるだけカメラに向けさせないで、私の視線の先に笑顔でいてくれる。
迷惑かけてるって思うと、本気でやめたくなる。
仕事だから。
みんなの仕事の邪魔をしているのは私。
「航、ピカちゃんとくっつきすぎだろ。ピカちゃんの視線、こっちにも渡せ」
「え?やだ。
ピカちゃん、俺だけ見てればいいからね?」
なんて和哉さんに言われても、かばってくれているみたいで。
松谷くんの手が後ろから私を抱きしめる。
ひたすら松谷くんの視線ばかり追って、私は振り返ろうとして。
そのままキスされそうになった。
と、松谷くんに投げられたみかん。
ナイスヒットした。
「はい、調子に乗りすぎ。そんないちゃつくな。ピカルも動かされすぎ」
里村さんが投げたらしい。
「いった…。思い通りに動いてくれるから思わず。…見つめあってばかりで妬いたんでしょ?里村さん」
「ピカルを抱っこするのは僕だけ。ってことで抱きしめるのはナシ。キスもナシ。もっと純愛見せろ」
「…難しい注文を…」
「できないならやらなくていいよ?緒方にやらせるから」
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