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「俺っ?…モデルじゃないです。手タレくらいならいいけど無理です。カメラアシスタントとしてここにいるんで」
緒方くんは突然振られて慌てたように里村さんに言う。
「和哉、アシスタントなんてなくてもいけるよね?」
「これくらいの撮影なら。交差点のはアシスタントが本気で欲しかったけどな」
「いけるって、緒方」
里村さんは緒方くんに振りまくる。
私は聞いているからわかってるけど、他の人たちは聞いていないだろう。
里村さんの思いつきのようなものはやめたほうがいいと思う。
「やりますって。カメラアシなんかに自分の立場食われたくありません」
松谷くんがライバル意識を燃やしたように言って、お遊び撮影みたいなスタイルをやめた。
さっきのほうがよかったと私は思う。
何度かシャッターを切る音。
「これもなぁ…。ピカルだけでいいや。他のスタッフもいい。和哉、ピカル、ちょっと外でやろうか」
里村さんはコートを手にすると一人で外にいってしまって、私と和哉さんは顔を見合わせる。
思っていたのと違うって里村さんはかなり思っているとみる。
すべてのプロデュースは里村さんだから、里村さん次第なんだけど、松谷くんは気を悪くしてしまったようだ。
「サク、あいつの機嫌とってくれ。ピカちゃんのでまだ一枚もオーケーもらってない。あいつの服に着替えろ」
和哉さんは緒方くんに声をかける。
「って、だから俺、モデルじゃないってっ」
「あいつが望むものできなければあいつも諦める。先にいくから。ピカちゃん、いこう」
和哉さんは私にコートを渡してくれて、私の背中を押すように歩き出す。
ご機嫌とらなきゃいけないなんて初めてのこと。
里村さん抜きで進められるものでもないし、私もうまく動けなかったのが悪いし。
どうしようってそればかり考えながら外に出ると、里村さんは雪の中を歩いていた。
たったそれだけなんだけど。
絵になる人だ。
私がカメラをやっていたなら、あれを撮りたい。
「我が儘見せすぎだろ?」
和哉さんは里村さんに声をかけていく。
「…用意したモデルが悪かった。主役を食って目立ちやがる」
「そういうものだろ。ピカちゃんがおとなしいから仕方ない」
「花はあるんだけどな、このファニーフェイス」
里村さんは私の額をつつく。
問題はやっぱり私らしい。
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