雪の中

6/11
前へ
/167ページ
次へ
「俺っ?…モデルじゃないです。手タレくらいならいいけど無理です。カメラアシスタントとしてここにいるんで」 緒方くんは突然振られて慌てたように里村さんに言う。 「和哉、アシスタントなんてなくてもいけるよね?」 「これくらいの撮影なら。交差点のはアシスタントが本気で欲しかったけどな」 「いけるって、緒方」 里村さんは緒方くんに振りまくる。 私は聞いているからわかってるけど、他の人たちは聞いていないだろう。 里村さんの思いつきのようなものはやめたほうがいいと思う。 「やりますって。カメラアシなんかに自分の立場食われたくありません」 松谷くんがライバル意識を燃やしたように言って、お遊び撮影みたいなスタイルをやめた。 さっきのほうがよかったと私は思う。 何度かシャッターを切る音。 「これもなぁ…。ピカルだけでいいや。他のスタッフもいい。和哉、ピカル、ちょっと外でやろうか」 里村さんはコートを手にすると一人で外にいってしまって、私と和哉さんは顔を見合わせる。 思っていたのと違うって里村さんはかなり思っているとみる。 すべてのプロデュースは里村さんだから、里村さん次第なんだけど、松谷くんは気を悪くしてしまったようだ。 「サク、あいつの機嫌とってくれ。ピカちゃんのでまだ一枚もオーケーもらってない。あいつの服に着替えろ」 和哉さんは緒方くんに声をかける。 「って、だから俺、モデルじゃないってっ」 「あいつが望むものできなければあいつも諦める。先にいくから。ピカちゃん、いこう」 和哉さんは私にコートを渡してくれて、私の背中を押すように歩き出す。 ご機嫌とらなきゃいけないなんて初めてのこと。 里村さん抜きで進められるものでもないし、私もうまく動けなかったのが悪いし。 どうしようってそればかり考えながら外に出ると、里村さんは雪の中を歩いていた。 たったそれだけなんだけど。 絵になる人だ。 私がカメラをやっていたなら、あれを撮りたい。 「我が儘見せすぎだろ?」 和哉さんは里村さんに声をかけていく。 「…用意したモデルが悪かった。主役を食って目立ちやがる」 「そういうものだろ。ピカちゃんがおとなしいから仕方ない」 「花はあるんだけどな、このファニーフェイス」 里村さんは私の額をつつく。 問題はやっぱり私らしい。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

132人が本棚に入れています
本棚に追加