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私に花があるとは思えない。
色をつけてくれるのは里村さんと和哉さんだ。
あとメイクをしてくれたり光を当ててくれたりするスタッフさん。
…何もなくても、そこにいるだけで絵になるような里村さんとは違う。
ユキさんのほうが…。
「春物早く撮っていきたいのに。とりあえずピカル、そのへん歩いて。和哉はそれ撮って。コート撮るつもりじゃなかったけど気分直し」
里村さんは溜め息をついて、私は私だけじゃ色も花もないのにと思いながら歩いてみる。
真っ白な世界だ。
木も空も白い。
雪の上に座ってみて、そのまま寝転んでみた。
和哉さんは私を真上から撮って、私は笑う。
「寒いだろ。帽子かぶってくればよかったな。髪も短くしたし」
「頭が冷やされちゃいます」
私は目を閉じて、和哉さんは私の髪を軽く整えて撮る。
シャッターを切る音。
いつからか、それを聞くと少し安心している自分がいる。
「花は蕾。咲かせたいのに相手は航じゃ陰る。あいつこそ手タレでじゅうぶんだな」
なんて里村さんはぶつぶつ独り言。
「サクなら口説いてきた」
「さすが和哉」
なんて里村さんはうれしそうだけど。
私が何度、緒方くんにフラれているのかわかってくれていない。
私が…いなければ緒方くんはモデルをやらされることはないし。
私のそばに近寄る必要もない。
「…ユキさんのほうが…モデル似合ってるんじゃ…」
私は起き上がろうとして、いつの間にかそばにきていた緒方くんに手を差し出された。
その手を見ていた。
ふれたいのに、差し出してくれているのに。
ふれられなかった。
そんなところを撮られてしまう。
和哉さんを見ると近くにいた里村さんのうれしそうな笑顔が見えた。
「確かに女の子モデルは色も花もあるけど、作り込まれた感がね。緒方の推薦で使ってみているけど」
「…ピカちゃんよりやる気ありますよ。負けん気強いっていうか」
緒方くんは私の腕を握って、私を立ち上がらせる。
「僕は君とピカルのカップルが好きみたいだ」
「…それってヒカルの気持ちを利用してませんか?」
「してるよ。君が泣かせるほど綺麗になる。強くなろうとする。もっと泣かせていいよ?」
「そんなつもりじゃありませんから。俺、彼女いるんで」
「だったら来なきゃいいのに。彼女と長い休みを満喫しておけば?」
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