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「アシスタントやりたかったんです」
「和哉の仕事全般なら、Girlstimeの仕事に来なきゃいい。掛け持ちしまくりの売れっ子カメラマンだしね」
「……」
「君が望んできたんだろ?ピカルに会えるから?」
「なんでそう里村さんも俺を追い詰めるんですかっ?振ったけどっ、彼女いるけどっ、気にかけてしまうのは悪いことなんですかっ?向き合わないほうが俺とヒカルのためだって、なんで思ってくれないんですかっ?」
緒方くんは声を少し大きくして。
和哉さんはカメラをおろして里村さんを見る。
「僕は利用しているだけ。緒方の在り方なんてどうでもいい。ただ、向き合いたくないを自分やピカルのためと言い訳するのはよくないと思うよ?恋愛する気がない。正直に言えば?」
「……つきあってます」
「押しまくられて折れただけじゃない?」
「なんか悪いですか?それ」
「ピカルには折れてやらないんだね」
「……遊びで振り返るものでもないでしょう?」
「遊びなら振り返る必要もない。無駄に関わる必要もない」
「だから…、でも…」
緒方くんは俯いて、私の腕を掴んだままの手に力を入れる。
私は緒方くんの手にふれる。
「…里村さん、いじめてません?」
「そう見える?ピカルもいじめてやれば?」
いじめたい。
泣いたぶんだけ思う。
だけど…。
これがいじめになるかもわからないけど、私は気持ちのまま緒方くんの体に抱きついた。
どんなに泣いても、どんなに悔しく思っても。
ぎゅっと緒方くんに抱きついて、その表情も見たくなくて。
唇だけ見て、私から初めて誰かにキスをした。
冷えた唇。
頬だけ熱い。
目を閉じたまま、何度もキスしていると、緒方くんは私を止めようとしてきて、私は止まってあげない。
雪に足をとられた緒方くんを押し倒すように雪の上に倒して、またキス。
「ピカちゃんっ、ちょっ…、ん…っ」
なんか喋ろうとしてくれるから、唇塞ぐように長くキス。
また泣かされたくないから何も聞きたくない。
呼吸苦しくなって唇を少し離すと、緒方くんの唇からこぼれた吐息。
薄く目を開けて、その顔を見ると、私を見ている瞳。
また目を閉じてキスをした。
緒方くんの手が私の腕にふれる。
満足するまでキスして、唇を離して笑いかける。
…ごめん。
あなたじゃなきゃ満たされないみたい。
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