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緒方くんの手が私の背中にふれると泣いた。
笑っていたのに泣いた。
涙が緒方くんの上に落ちた。
私の背中、抱き寄せられて、私は緒方くんの肩に顔を当てる。
どれだけ好きでいれば叶うの?
「……そこの二人、見ていないでもう放っておいてください」
緒方くんはそんな声を里村さんと和哉さんにかけて、私の頭を撫でてくれる。
雪の上を歩く2つの足音。
遠く離れていく。
しばらくただ泣きながら抱きついていた。
緒方くんは何も言わなかった。
涙が落ち着いてくると寒くて、ぎゅっと緒方くんにしがみつく。
「…冷える…。……俺、ユキとつきあってた。一回だけした恋愛」
緒方くんは鼻をすするとそんなことを言ってくれる。
「…まぁ、でも、いい思い出ないけどね。整形するし、仕事が欲しいからってあっちこっち手を出しまくり。年が何歳でも関係なし。俺、彼氏って感じじゃなかった。事務所の子だから利用されていただけ。で、放置されて自然消滅。…なのに、頼まれてまたユキの言うこと聞いてる。ピカちゃんが惚れてくれるようなたいした男じゃないよ」
「……まだ好きなの?」
「それはないと思う。でも疲れた。つきあうこと。前田がなんのつもりか俺を遊び相手に選んで、とりあえずつきあってみたけど。…俺とつきあってもたぶん、つまらない。呆れられたくもないし、前田とつきあってるし。友達のまま…がいいって思うんだけど。なんかまちがってる?」
「……私の気持ち、なんにも考えてくれてない」
「……だから…、そんないい男でもない。ピカちゃんなら俺より…」
なんてまた同じこと言ってる。
私は緒方くんの顔を見る。
緒方くんは私を見て、目を逸らして。
ぎゅって抱きしめてくれる。
「…すごく大切に思ってる。正直うれしい。…こんなんじゃだめ?」
「…だめ」
私が聞きたいのは一つだけ。
「……なに言えばいい?」
「好きって言って」
「……好き」
本当に言ってくれると思ってなかった。
私は赤くなる。
「……好き?」
緒方くんは聞いて。
私は緒方くんの肩に顔を埋める。
「……聞かなくても…知ってるけど」
なんて言われてしまう。
好き。
伝わることだけでうれしい。
叶わなくても…届いたなら…。
満たされた。
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