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緒方くんの言ってくれた好きが、私と同じものじゃないことはわかる。
友達の好き。
私の気持ち、困っているのは受け取れないからで。
受け取れないのはカナちゃんよりも本気だからで。
本気で恋愛して疲れたくないからで。
私のことのように言ったけど、緒方くんの私を見る目はユキさんと重ねて、同じようにしてほしくないから。
そういう子だと思っているわけじゃなくて。
どっちにしても私とつきあう気はないってフラれてしまってるんだけど。
好きでいるだけなら…いいよね?
私のこと、決して嫌ってはいないから。
家に戻ったあとは、また撮影。
メイクを直してもらって。
松谷くんがプロのモデルとして里村さんに反感を持ちながら、私の彼氏役をする。
里村さんは私を主役に置きたいのに、私が陰るから納得しない。
なら、私がもっと自分を出していかなきゃいけない。
松谷くんのペースでいると、私は完全に顔をカメラに向けることがない。
リードをしてもらいつつ、視線はカメラへ。
顔が完全に見えないような角度にはならないように。
私の着ている服が隠されてしまうようなポーズなら、私が動く。
和哉さんが指示を出しても松谷くんは自分のやり方があるとでもいうように、言うとおりにはしないから。
純愛を見せろと里村さんは言ったけど、そんな注文は私も難しい。
だから、せめてと松谷くんとべたべたしすぎない距離をもって、松谷くんを緒方くんだと思って見つめる。
松谷くんはかっこいいけど、かっこいい人ならまわりにいっぱいいるし。
里村さんほど見とれるものもない。
緒方くんほど私の気持ちを引き寄せるものもない。
レンくんほど親しさもない。
西脇くんほど気を許した友達でもない。
モデルとして。
演じる。
一枚の写真の中の私。
がんばったら里村さんが納得してくれて、ようやくごはん。
ごはんを食べたあとはまた撮影。
ユキさんの視線を見ながら、緒方くんの視線を見ながら。
私はカメラに向かってユキさんに負けたくないものを見せる。
あのショートボブの女の子の写真はユキさんだったのだろう。
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