7人が本棚に入れています
本棚に追加
どうやら脱臼したらしい。
少年の体を無理に引っ張りあげようとしすぎたのと、最後の最後、少年が岩場から足を踏み外した時に、ガクンとかかった落下の勢い。そして重み。あれがいけなかった。
右肩の付け根はもちろん、上半身全体が燃えるように痛い。だが実際のところは、全身で痛くないところは無いといってもよかった。
唯一の慰めは先刻から霧のように降りだした細い小雨だ。火かき棒を押し当てたように灼けるあちこちからの激痛を、わずかなりとも冷まし、和らげてくれているような気がして、今はありがたかった。
「なんで、こんなところにいたのよ」
少し離れたところに転がっていた少年が、目だけを動かして和美を見上げた。
ふたりともがこうして助かったことは、奇跡のように思えた。
落ちていく間に自分が何をしていたのか、まったく覚えていない。ただ、必死に何かをつかもうとしていたような、気はする。
それが少年のシャツだったのか、はたまた別の物だったのかはわからないが、両手の手のひらがびっくりするほど血まみれになっていたから、そのどちらもだったのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!