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少年は、俄に和美の顔を食い入るように見返してきて、それからふっつりと黙り込んでしまった。
具合が急に悪くなりでもしたのだろうかと内心慌てて様子を窺ってみたが、何か物思いにふけっているような横顔をからしてそうでもないらしい。
自分がいけないことでも言ってしまったのだろうか。
思いがけない反応に戸惑っていると、少年が口を開いた。
「今、橘さん、言ったよね。ぼくがなんでこんなところで星を見るのか、って」
それがなんだろう。
少年を傷つけるような問いだったのだろうか。
ためらいながらもうなずいて見せると、少年は目を上げて言った。
「もう一つ、あるのかもしれない」
理由がさ、と、少年は呟いた。
今しがたまでのぼんやりとした柔らかな表情とは打って変わって、思い詰めたような目をしていた。それでいて、その夕霞を思わせるような雰囲気そのままに、今にもどこか遠いところへ消え去ってしまいそうだ。
少年は大きな溜息をついて、高い崖の向こうに隠れて陽光の名残だけが残る夕空を仰いだ。
「こういうところで見ているとさ、自分が一人ではなくて、それでいて一人でもあるような気がして。寂しくて、悲しいのに、なのにその気持ちに、ほっとした気持ちも混じるっていうのかな。……わかる?」
二度目の思いがけない言葉だった。
その気持ちであれば。
思うより先に、唇が応えていた。
「わかると……思うよ」
和美も、だからこの東都防衛学院を選んだのだ。
あの家を出て、父の顔も母の顔も、妹の姿も見ずに済むこの学校へとやって来たのだ。
少年の歯を食いしばりながら不器用に腹筋をやっていた姿が、脳裏に蘇った。
「わかると、思う」
少年の残照を沈ませたような瞳が、瞬くことも忘れたように和美を見ていた。
和美は知った。
少年も戦っていたのだと。
自分のように何かから逃げてきて、今なお戦っているのだと。
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