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「ねぇ、どうしよう」  先に口を切ったのは少年の方だった。 「どうしようも……。どうにもできないわよね」  どれだけの深いのかわからない傷をそれ以上汚さないために、とりあえずは、制服の布の破けるところを破いて、巻くだけ巻いた。  和美は肩が動かない。少年の方は脚が動かない。腫れ具合からみても、どうやら膝のあたりに酷い怪我をしているようだった。  互いに崖を這い上がれるような状態でないことはわかっていたが、それだけに、こうも真っ暗になってしまうと、身に迫って危機を感じた。  当然ながら街明かりはない。月が中天近くにある今は、わずかながら月明かりをアテにすることができる。だから少年の汚れた白いシャツもまだぼんやりと見える。だが、それもあとどれくらいのことだろうか。月が雲や山際に隠れてしまえば、あたりを覆うのは真の暗闇だ。 「今頃みんな、ぼくたちを探してるだろうね。きっと、先生たちも」  和美の腕時計はどこかにぶつけた拍子に壊れたのか動かなくなっていたし、少年の荷物の中にはコンパスと時計とマップが一体になった通信ツールも入っていたらしいのだが、その荷物自体がもうどこへいったやらわからない。  今がいったい何時頃なのかまったく見当がつかなかった。ただ、ほかにやることもなく、ずっとこうして夜空と黒い山を眺めてばかりいるせいか、ずいぶんと遅い時間帯に思えたのも確かだった。
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