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茫然と座り込んでいた。
少年は目をみはったまま首をゆらゆらと揺らした。
「――『善司の天体望遠鏡は、お父さんとお母さんが善司がやがて大きくなったら使ってほしいって、そのために買っておいてくれたものなんだよ』って、いつも言っていたけど」
唐突な少年の呟きに、和美は驚いた。
「でも、知ってたんだ、本当はそうじゃないって」
少年はまっすぐ前を見たままだった。
ここにいるのは自分と少年のふたりだけなのに、少年がそれをいったい誰に言おうとしているのか、泣きそうなその声が果たして本当に自分に向けられているものなのか、疑わしく思えた。
「……ね、どうしたの。大丈夫?」
身を震わせている少年をゆさぶると、少年は我に返ったように肩を跳ねあげて、それからうろたえて「ごめんね」と目元を拭った。
「祖母が、買ってくれたんだ。ぼくのこと、かわいそうだと思ったんだろうね。ぼく、小学生の時に父と母を亡くして」
「――……そうだったんだ」
そうはいっても、父と母が今も健在な和美にとって、物心がついた頃から父と母が不在であるということは、想像しようにもなかなか難しいことだった。
「さびし、かった?」
聞いて良いのか悪いのかわからずに、ためらいがちにそう訊ねると、少年は「どうだろう」といって、口元を引き結んだ。
「ぼく、この学校に来る前はおばさんの家にいたんだ。おばさんにおじさん、それから、その頃はおばさんの四人の子どもたちもいて、ぼくよりずっと年上だったからあんまり話さなかったけど、一緒にいたからね。……でも、小さい頃はよく、ご飯をあまり食べられなくなったり、お腹が痛くなってベッドから起き上がれなくなったり、そんなのはあったよ。そうなるとおばさんたちは、きまってぼくを祖母のところに預けた。当時はなんでそうもしょっちゅうお腹が痛くなったり、ご飯が食べられなくなったりするのか、全然わからなかった。今ならわかるよ。きっと、おばさんたちにとって、ぼくはとても面倒くさい子どもだったんだろうね」
「……そう」
和美は少年に辛いことを無理矢理思い出させた気がして、訊ねてしまったことを後悔したが、少年はなおも、ぽつりぽつりとではあったが、告白を続けた。
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